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2012年11月 3日 (土)

ロケーションがまず圧巻な、人間重視ミステリー『倫敦から来た男』。

『倫敦から来た男』於・吉祥寺バウスシアター

タル・ベーラの語り口で、ミステリーを映画化するという試み自体がまず、すごいのだけれど、その場合にありがちな、ミステリードラマとしての完結は、もうどこへやら見たいな広がりになることもなく、ミステリーとしての起承転結がしっかりと守られているところが、この作家が、あくまで語り口の人なのだ、と納得させる。

とにかく、主舞台となる、駅の信号所小屋ともいうべき、あのロケーションがものすごい。そこを視点として、カメラを移動させることだけで、物語を進めていってしまう。物語は、次々進んでいるが、それはセリフとして残ることがない。おそらく、こんな?映画だと知らなかったのであろう、大人めのカップルが、後に「さっぱりストーリーがわからなかった」とこぼしていた。ある意味、映像を注視していないと、物語はわからない映画にしてある。

男が、一線を越えた行動をした後の、動揺の様。すべてのシーンに、苛立ちの具現化とも思える、一定の間隔で放たれる雑音(ビリヤードの玉の音、肉を叩く包丁の音)でリズムが刻まれる。静かに進行する「動画」が、動画であることを意識させるためとも言えるその物音と、初めのシーンの、小屋からの眺景も、あえて障害物ごしに画面が移動していく。

この映像作家が、必ずしも、骨子となる物語に興味の全体はない、もしくは、登場する人物全てに興味がある証拠ともいえる描写は、多くのシーンが、物語の中心となる人物が、そのシーンから退場した後も、しばらくそのシーンを描き続けること。前の席に座っていた男の食べっぷりであったり、前述の肉屋の包丁さばきであったり、ボールをけり続ける少年であったり。

原作となっているジョルジュ・シムノンの小説自体が、事件を描き、ミステリーでありながらも、その興味は、事件に関わる人間ドラマである旨があるため、シムノンの哲学によるものかもしれない。イギリスから来た刑事の、最後のおとしどころも、事件そのものよりも人間、の姿勢が現れる。

そして、珍しいのが、見終わった後、不思議に違和感ないが、こんな映像のリズムでありながら、ハリウッド大作ばりに、しっかり、多くのシーンに劇伴が流れていることである。スコアにしては、かなりアンビエントによる、起伏を少なくしたサウンドだが、しっかりメロディも存在している。薄い膜のように張られる劇伴も存在しつつ、かなり意図されたSEも同時進行させながらなので、奇妙な味わいがある。

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