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2013年9月 6日 (金)

作品を語らず醜聞にのみ関心がある状況と酷似する。写真そのものの内容をもっと知りたい『メキシカン・スーツケース』

『メキシカン・スーツケース』於・シネマカリテ(鑑賞8月31日) 

  冷静に、思い返せば、ひとつ、気づくことがある。それは「スーツケースに入っていたネガの写真そのものの詳細がわからない」ことである。そして、そうであるがゆえに、写真ファンでなくとも、その史実のスリリングさを味わうことができる。
 伝説のみだったスーツケースが本当に発見され、そのスーツケースをめぐる、初めの状況と、それを保管していた人間から、世界の目前に発掘される様、そして、その行為の是非まで。
 この事象に携わった人物たちの人間像を考察し、この事件そのものから、スペイン内戦の状況全体へと目配せしていく。

 ここで意外なのが、ロバート・キャパという人間そのものはやはり謎のベールになかば包まれた状態のままで、かつ、このスーツケースの中の写真は、分析中だから、ということもあるかもしれないが、ほとんど語られない。

 ここで、思いつくのが、今回のこの作品に限らず、めぐる事件やスキャンダルにばかり興味が湧き、本人、作品自身について語られることがほとんどない、メディアによる「紹介」の状況だ。

 例えば、受賞歴、観客動員数、観客満足度、などを列挙されても、その映画がどんな作品なのか、まったくわからない。それは音楽についても同じで、「音が聴こえてこないコメント」は、世の中に多い。これに似ているのじゃないか、と。
 濃い写真ファンのための作品だろう、という推測ができる。写真の内容は、説明不要なのだ。もちろん、極限まで接近して撮影したスタイルの写真だ、ということは説明されるが、それはキャパのスタイルについての話で、このスーツケースの中の写真の内容に直接的につながらない。作家の文体の話のみに終わっているようなものなのだ。

 もちろん、スーツケースをめぐる数奇な歴史はそれそりものも十分刺激的なので、ちょっといじわるな物言いではあるんですけれども。

 パンフレットは、トリーシャ・ジフ監督のメッセージ、マグナム・フォト東京支社の小川潤子氏、スペイン現代史を専門とする川成 洋氏、NHK通訳の比嘉セツ氏による各原稿は、同じ史実を、それぞれの専門を中心にそれぞれの視点で解説し、興味深い。厚みそのものは、一見心許ないが、かなり凝縮して内容の濃い冊子。

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