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2014年1月11日 (土)

自分だったら、邦題は『ローレは泣かない』か。 そして、マックス・リヒターについても少し。 『さよなら、アドルフ』

『さよなら、アドルフ』於シネスイッチ銀座

 『はじまりのみち』『誓いの休暇』そして『少女は自転車にのって』をそれぞれ思い出した。
 まず、この映画は、いわばロードムービーである。が、ロードムービーの定義のひとつであろう「旅の途中で、さまざまな人の情にふれる」というお約束があるが、この作品には、それはない。なので、ロードムービーといっても、まるで、祖母の家が、外部へのハッチのある場所、とみたてての「ポセイドン・アドベンチャー」にすら、見立ててもいいかもしれない。
そう、おそらく邦題からは予想しない、シンプルなプロットの映画である。物語冒頭に、目的地を知らされるが、はじめ、その目的地までの道中のみのドラマとは思わないナチュラルな、濃密なドラマ性がある。
冒頭と、終盤に、そうではないシーンも少しだけあるが、この映画は、ほぼすべてが、ヒロインの少女、ローレと時間を共にする。なので、今、自分たちは、どういう状況下にあるのか、ということも、大人たちの数少ない会話や行動の中から推測するしかないし、推測はすれども、あまりにもの状況の変容振りに、あきらかに自分の許容範囲を超えた事態であることの混乱は収められない。
 徹底的に少女の視点であることは、監督が女性であることで、微細な心理描写まで描くことを可能にしていると思う。あまりにもの過酷な状況下でありながら、この物語は「日常の物語」なのであり、少女自身の半径何メートル範囲の、細かい時間推移での出来事を克明に写していく。
 全編、手持ちカメラでの撮影と、あまりにも多いカット割りは、ちょっと見る側にきついけれども、少女の動揺ぶりの反映ととれば、納得できる。

 ところで、邦題は、この物語を全くあらわさないと思う。少女の中では、両親の存在であり、ましてや、動揺の中で、終わりまで、何が起きているのか、はやはり確定できずに生きている。ラストの行為が、それを示す、という見方があるかもしれないが、あの行為は、そうではなくて、それまでずっと泣かずにいた自分の「泣く」行為の代替であって、ある意味「大人になる覚悟」ということなのだと解釈する。
 すると、思うに、邦題は『ローレは泣かない』か、道中中、長女であるがゆえに、すべてを犠牲にしなければいけない感覚が、この物語のかなめでもあると思え『長女ローレ』か『ローレと弟たち』か『ローレの旅』あたりかと思える。なんといっても、口にするのをためらわれる固有名詞を、原題にないにもかかわらず持ってくる、というのが理解しがたい。

 音楽のマックス・リヒターは『少女は自転車にのって』も担当した。が、その作品もだが、テーマ曲らしきものを流す冒頭、ラスト以外は、可能な限り、劇伴はすごく小さくか、瞬間的にしか流していない。ただし、テーマ的に流れるスコアは、とても美しい。リヒターが担当した、この2作は、偶然ながら、ともに原題はヒロインの名前のみなのに、邦題に、その名前がなぜか残っていない。
 今回の作品は、リヒターのスコアよりも、登場人物たちが口ずさむ歌がキーになっている。その歌こそが、過去の状況を推測させる、というアイデアも、女性監督ならではの発想のように思える。
 もうひとつ、リヒターは『サラの鍵』も担当している、というこの流れも、意味を含んでいるように思えてくる。

 パンフレット。まず、東京大学大学院人文社会系研究科の姫岡とし子さんによる、当時の状況無説明。キャスト、スタッフは、いずれも、日本での紹介作少ない中、作品を見る手助けになるレベルの情報をしっかり掲載。マックス・リヒターについても丁寧。次に、監督自身が、詳細なリサーチの様子などを含め、解説しているが、これは必読。そして、ドイツ文学者の松永美穂さんが、映画中の描写から、ドイツ史と照らし合わせて解読。映画ライターの高橋諭治氏は少ないフィルモグラフィから監督論を試みる。
 映画は、説明を全く排除しつつ、時代のキーワード、重要なメッセージを刷り込んでいるため、パンフは、かなり鑑賞の手引きになる作品と思う。

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